「取る」と「摂る」、どちらも「とる」と読むこの二つの言葉、なんとなく使っているけれど、実は意味や使い方にははっきりとした違いがあるのをご存じですか?
「栄養を摂る」「資格を取る」など、似ているようで使い分けが求められる日本語表現は、場面や文脈によって適切に選ぶことで、文章や会話にぐっと説得力が増します。
このページでは、それぞれの言葉が持つ意味、正しい使い方、さらには漢字の成り立ちまでを丁寧に解説。
例文を交えながら、日常生活からビジネス文書、公的な文章まで幅広く対応できる知識を提供します。
日本語をもっと正確に、美しく使いたい方のためのガイドです。違いを理解し、自然で品のある日本語を身につけましょう。
「取る」と「摂る」の違い
「取る」とは何か?
「取る」は非常に広い意味を持つ動詞で、「手に入れる」「受け取る」「奪う」「選ぶ」など、さまざまな行為を表す一般的な言葉です。
この語は、日常会話だけでなくビジネスや法律、教育、さらには文学の中でも頻繁に使われており、文脈に応じて柔軟に意味が変化します。
たとえば、「休みを取る」「予約を取る」「メモを取る」といった表現は、いずれも「あるものを自分のものとする」という共通のニュアンスを持っていますが、それぞれのシチュエーションによって少しずつ異なる意味合いが含まれます。
このように「取る」は日本語の中でも非常に多機能な単語であり、文法的にも語彙的にも頻出する動詞の一つです。
「摂る」とは何か?
「摂る」は、主に「摂取する」という意味で使われる漢字で、身体の内部に何かを取り込む行為を示します。
特に「栄養を摂る」「水分を摂る」「睡眠を摂る」など、健康や生理的な活動に密接に関連した文脈で使われることが多いです。
また、公的な文書や医療関係の表現においては、「摂取」という語の一部としてもよく登場し、専門性や正確さを求められる場面で使用される傾向があります。
一般的には「取る」よりも硬い印象を与える語であり、日常会話ではややフォーマルなニュアンスを持ちます。
「取る」と「摂る」の共通点
両者には、「手に入れる」「取り込む」といった意味において共通点があります。
どちらも「何かを得る」という行為に関係していますが、表現する対象や文脈によって使い分けが必要です。
例えば、「情報を取る」「資料を取る」などは「取る」が自然ですが、「栄養を摂る」「水分を摂る」は「摂る」でなければ違和感があります。
このように、どちらも“取得”という概念に基づく言葉でありながら、用途には明確な区別があります。
意味の違いと使い分け
「取る」は非常に広範な意味を持ち、物理的な対象(例:モノ、メモ、資料)だけでなく、抽象的な概念(例:資格、権利、チャンス)を手に入れる場合にも使えます。
一方、「摂る」は主に体内に取り込む行為に限定されており、対象も食物、栄養素、水分、睡眠などの身体的要素に限られます。
そのため、「薬を摂る」は不自然な言い回しとなり、通常は「薬を飲む」または「薬を取る」と表現します。
この違いを理解することで、より適切で洗練された日本語表現が可能になります。
「摂る」の使い方
栄養を摂るとは
「摂る」の最も代表的な使用例が「栄養を摂る」です。この表現は、体に必要な栄養素を食事を通して取り入れることを意味します。
ここでいう「栄養素」には、たんぱく質、ビタミン、ミネラル、炭水化物、脂質などが含まれ、これらをバランスよく摂ることで身体機能を正常に保つことができます。
「栄養を摂る」は健康を維持し、病気を予防するための基本的な行動として、医療や保健の分野でも多く使用される表現です。
例:
- バランスよく栄養を摂ることが健康維持に重要です。
- 忙しいときでも、意識して栄養を摂るように心がけています。
食事を摂る具体例
「食事を摂る」という表現は、単に「食べる」と言うよりも丁寧でフォーマルな響きを持ちます。
特にビジネスシーンや医療、教育の現場などでは、「摂る」を使うことで、より品位のある言い回しになります。
また、「規則正しく食事を摂る」「時間を決めて食事を摂る」といったように、生活習慣の改善に関する文脈でも使われます。
例:
- 朝は軽く食事を摂るようにしています。
- 会議前に軽食を摂っておくと集中力が持続します。
睡眠を摂るとは
「睡眠を摂る」という表現は、「眠る」「寝る」よりも丁寧で公的な文脈に適した言い回しです。
健康の基本として、十分な睡眠を摂ることの重要性が認識されており、「良質な睡眠を摂る」「短時間でもしっかり睡眠を摂る」といったように、睡眠の質や時間に注目した使い方がなされます。
睡眠不足は集中力の低下や免疫機能の低下などにもつながるため、「睡眠を摂る」は健康管理のキーワードともいえます。
例:
- 良質な睡眠を摂ることで集中力が高まります。
- 睡眠をしっかり摂るよう意識することが大切です。
公用文における使い方
行政文書、医療機関の説明資料、報告書、学術論文など、形式ばった文章では「摂る」が多く使われます。
特に「栄養を摂取する」「水分を適切に摂る」など、客観的・科学的な事実を伝えるためには、「摂る」は欠かせない表現です。
「取る」では意味が曖昧になったり、口語的な印象を与える可能性があるため、精緻な表現を求められる場面では「摂る」が優先されます。
例:
- 高齢者は一日に必要な水分を意識的に摂ることが推奨されます。
- 指導資料には「1日3食を規則正しく摂ることが望ましい」と記載されています。
「取る」の使い方
食事をとるとは
「食事を取る」は、「食事を摂る」と同じように「食べる」という行為を丁寧に表現したものですが、より口語的で親しみやすい言い回しとして使われます。
特に日常会話では「取る」が自然に受け入れられており、「ランチを取る」「朝ご飯を取る」など、軽快なリズムで使える便利な表現です。
加えて、「時間を見つけて食事を取る」「体調を整えるために三食取る」など、生活習慣や健康管理に関連する文脈でも使われています。
食事という行為に対してあまり硬い印象を与えず、柔らかく伝える際に適した表現といえるでしょう。
例:
- 昼休みに軽く食事を取った。
- 忙しい日でも時間を見つけて食事を取るようにしている。
- 体調を崩さないよう、決まった時間に食事を取る。
一般的な使い方
「取る」は非常に多様な場面で使われる万能動詞であり、その使用範囲は非常に広いです。
「予約を取る」「休みを取る」「メモを取る」など、情報や機会を得るという意味から、「場所を取る」「責任を取る」といったように空間や抽象的概念に対しても使うことができます。
また、「写真を取る」は実際には「撮る」が正しい漢字ですが、口語では「取る」と書かれることもあります。
いずれの場合も「取る」は「何かを自分のものとする」「ある目的のために行動する」という意識が含まれています。
- 例:
- 会議のために会議室を取った。
- 体調不良のために休みを取った。
- 大事な話を忘れないようにメモを取った。
言葉の使い方の例
「取る」は、抽象的な行動や状態にも幅広く使われます。
たとえば「資格を取る」は学習や試験を通じて正式に認定されることを意味し、「チャンスを取る」は絶好の機会を逃さずつかむ行動を指します。
また、「連絡を取る」は人とのコミュニケーションを開始・維持することを意味し、ビジネスやプライベートの両方で日常的に使われます。
- 資格を取る
- チャンスを取る
- 連絡を取る
- 注文を取る(飲食店などで)
- 点を取る(スポーツなど)
漢字の表記について
「取る」は常用漢字であり、小学校低学年で学ぶ基本的な漢字のひとつです。意味も直感的に理解しやすく、日常会話や文章において広く使われています。
対して「摂る」は中学生以降に学ぶやや難解な常用漢字であり、読みや意味が分かりにくいため、一般的な文章では使用頻度が低めです。
文章のトーンや読者層に応じて、「取る」と「摂る」の使い分けを意識することが求められます。
また、「取る」は他の漢字と結びついて多くの熟語を形成する特徴もあり、「取得」「収取」「採取」などの語としても広く使われています。
「摂る」と「取る」の言い換え
異なる言い回しの例
- 「栄養を摂る」→「栄養を取る」「栄養を補給する」「必要な栄養素を身体に取り込む」
- 「食事を摂る」→「食べる」「ご飯を取る」「食事の時間を取る」「飲食を行う」
- 「睡眠を摂る」→「眠る」「睡眠時間を確保する」「休息を取る」「ぐっすり眠る」
これらの表現は、意味的には大きな違いはありませんが、使用される場面や文章のトーンによって適切な語が選ばれるべきです。
「摂る」はやや専門的でフォーマルな印象を与えるのに対し、「取る」は親しみやすく口語的な言い回しになります。
コンテクストによる使い分け
「摂る」は医療・保健・教育などの分野で、専門的かつ正確なニュアンスを持たせたいときに選ばれやすい表現です。
たとえば「高齢者の栄養を適切に摂る必要がある」といった場合、信頼性や説得力を強める効果があります。
一方、「取る」はカジュアルな会話やブログ記事、SNS投稿など、より読者や聞き手に近い距離感を保ちたいときに適しています。
たとえば「最近ちゃんとご飯取ってる?」というような表現は、日常会話で非常に自然です。
また、子ども向けの教育や口語的な説明では「取る」が理解しやすく、「摂る」だと難しい印象を与えることもあります。そのため、ターゲット層に応じた選び方も重要になります。
口語と文語における使い方
- 口語:今日はしっかり休みを取った。栄養もちゃんと取ったし、少しは元気が出た。
- 文語:十分な休養を摂ることが求められる。特に病後は栄養と睡眠を計画的に摂取すべきである。
このように、「取る」と「摂る」は単なる言い換えにとどまらず、文体や目的、相手との距離感によって使い分けることで、より伝わりやすく自然な日本語表現が可能になります。
「摂る」と「取る」の読み方
正しい読み方
- 「摂る」:とる(音読みは「セツ」)
- 「取る」:とる(音読みは「シュ」)
どちらも同じ「とる」という訓読みが使われますが、使用される文脈や意味合いによって適切な漢字が異なります。
特に書き言葉では、この違いを意識することで文章の正確さや印象が大きく変わるため、日本語の精度を高めたい場面では重要なポイントになります。
なお、ニュース記事や公的文書などでは、同じ読みであっても意味の違いを明確にするために漢字をきちんと使い分ける傾向があります。
漢字の成り立ち
- 「取」は「耳」と「又(手)」から構成され、「耳を手で取る」という象形文字に由来しています。このことから「手で何かを得る」「奪う」「受け取る」といった意味に派生し、非常に広範な用法を持つ基本的な動詞になりました。
- 「摂」は「扌(手偏)」と「聶(複数の耳を近づけて静かに聞く)」を組み合わせた形で構成されており、「手で細かく取り入れる」「丁寧に吸収する」といった繊細なニュアンスが込められています。したがって、摂るは単に「取る」よりも深く、内的・身体的な作用を強調する表現として用いられるのです。
日本語の応用例
- 健康を保つために、しっかりと栄養を摂る。特に偏りのない食事から必要なビタミンやミネラルを摂ることが大切です。
- 資格を取るために勉強する。目標を定めて努力し、試験に合格することで正式にその資格を得ることができます。
- 十分な休みを取ることが大切です。心身のリフレッシュを図るためには、意識的に休息の時間を取る習慣が必要です。
- 暑い日はこまめに水分を摂ることを心がけましょう。脱水症状を防ぐためにも重要な行動です。
- 長時間の仕事や勉強の合間に軽食を取ることで集中力を維持することができます。
まとめ
「取る」と「摂る」はどちらも「とる」と読みますが、意味や使い方に明確な違いがあります。
「摂る」は主に身体の内部への取り入れ、つまり栄養、水分、睡眠などの健康に直結する行為を表す際に使われ、ややフォーマルかつ専門的なニュアンスを帯びています。
一方、「取る」はより広範な意味を持ち、物理的なものから抽象的な概念まで、さまざまな“取得”の動作を表現できる極めて汎用的な語です。
両者の違いを正しく理解し、文脈に応じて適切に使い分けることは、日本語の表現力を高めるうえで非常に重要です。
たとえば、「栄養を摂る」と「栄養を取る」では、前者の方が医療や教育などの専門的文脈に適しており、後者は日常会話や口語的な文章で自然な印象を与えます。
また、「資格を取る」「責任を取る」などは「摂る」では表せない表現であり、「取る」だからこそ成立する幅広い用法です。
このように、同じ読みでありながら用途が異なる漢字を理解することは、語彙力の向上だけでなく、文章の説得力や伝達力を大きく左右します。読者や聞き手に対して、より的確で自然な日本語を届けるために、「取る」と「摂る」の違いを意識した言葉選びを心がけましょう。